5.6. 細胞膜の機能
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細胞はまた外界からの物質の流入と流出を調節している
細胞膜
脂質二重層膜に埋まったタンパク質の主な働き
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本節ではおもに、細胞膜がどのようにして物質の細胞内外の輸送を調節しているかについて焦点を当てる
輸送タンパク質がこの機能に重要な役割を果たしている
輸送タンパク質 transport protein
細胞膜を横切って物質を移動させる膜タンパク質
受動輸送 : 膜を介した拡散
拡散 diffusion
拡散により、分子は空間に広がっていく
それぞれの分子はランダムに動くが、分子の総和としての拡散には方向性がある
すなわち、濃度が高い方から低い方へ移動する
たとえば、香水の小瓶の蓋を開ければ、すべての香水の分子がランダムに動くが、分子の方向の総和としては、小瓶の外へ出て、そして部屋を満たすことになる
大変な努力の末に香水を小瓶に戻すことができるかもしれないが、分子が自然に戻ることは決してない
生きている細部に近い例として、細胞膜を介して、純水と色素を溶かした水とが接しているとしよう
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この膜が色素分子に対して透過性をもつ、つまり、色素分子は膜を通過できると仮定する
色素分子はランダムに動くが、総和としては、純水側への膜を介した移動が見られるようになる
膜を介した色素分子の拡がりは、両方の溶液が等しい色素濃度になるまで続く
その点に達すると、平衡に達し、そのとき多くの色素分子は、膜を介して両方向に同じだけ移動していることになる
膜を介した拡散は受動輸送 passive transportの一例
細胞がエネルギーを消費しない輸送
しかしながら、細胞膜は、選択的透過性をもつことで調節機能を果たしている
たとえば、CO2やO2のような小さい分子は一般にアミノ酸のような大きな分子よりも早く透過する
しかし細胞膜は、H+やその他の無機イオンなどの小さなものでもイオンは通過させない
それらは強い親水性をもつためにリン脂質の二重層膜を通過できない
受動輸送においては、物質は濃度勾配 concentration gradientすなわち場所による物質の濃さの違いに従って移動する
すなわち物質は濃度の高い方から低い方へと動く
たとえば、我々の肺においては、濃度勾配に従った輸送が唯一の方法となっていて、これによって代謝に必要なO2は血液中に入り、代謝によって生じた老廃物のCO2は血液中から出ていく
細胞膜を自動的に通過できない物質は、ある特別な輸送タンパク質による促進拡散 facilitated diffusionによて輸送される
このタンパク質はその物質の選択的な通路として働く
このタンパク質なしでは、物質は膜を通して移動できず、移動したとしても非常に遅いために細胞は機能しない
促進拡散はエネルギーを必要としないので、受動輸送の1つのタイプ
他の受動輸送と同様、その駆動力は濃度勾配
浸透と水のバランス
浸透 osmosis
選択的透過性をもつ膜を水が透過すること
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膜を介して2つの異なる濃度のスクロース溶液が接している場合を考える
膜は水に対しては透過性を持つが、溶質に対してはもたない
高張 hypertonic液(高張液)
濃度の高いの溶液
低張 hypotonic液(低張液)
濃度の低い溶液
低張液というのは、水に関しては高い濃度をもつことに着目
水は、水の濃度の高い方(低張液)から水の濃度の低い方(高張液)へ、濃度勾配に従って移動する
その結果、溶液の濃度差が減少し、2つの溶液の容積が変化する
人々は浸透を食物の保存に利用してきた
塩はよく、肉を保存するのに用いられる
塩は水を食物から奪って、塩濃度の高いほうへ移動させる
食物はハチミツ漬けによっても保存される
食物中の水が高い糖濃度のハチミツのほうに移動するため
溶液の濃度が膜の両側で同じ場合には、水分子は両方向に同じ割合で移動する
その場合、総和としては変化はない
等張 isotonic液(等張液)
等しい濃度の溶液
コンタクトレンズの塩類溶液は、ヒトの眼の表面を流れる液体と同じ濃度に作られていて、眼を刺激しないようになっている
動物細胞の水のバランス
細胞の生死は、水の取り込みと排出のバランスを保つ能力に依存している
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赤血球のような動物細胞が等張液に浸された場合、水の吸収と排出の割合が等しいので細胞の体積は変化しない
細胞内と細胞外の2つの溶液の濃度が等しくなるので、細胞は周囲と等張になっている
ヒトデやカニなどの多くの海生生物は、体液が海水と等張
動物細胞が低張液に接すると、浸透によって、細胞は水を吸収し、膨張し、破裂(溶解)するだろう
高張の環境でも動物細胞はしぼんで水不足によって死んでしまうこともある
浸透圧調節 osmoregulation
動物細胞が低張や高張の環境でも生き続けるための過剰な水の吸収や放出を抑える手段
たとえば淡水魚は、周囲の環境が体液に対して低張であるので、腎臓とえらで、体内への水の過剰な侵入を絶えず防いでいる
ゾウリムシは収縮胞で、低張な淡水の池から絶えず細胞内に入ってくる水を排出する
植物細胞と水のバランス
植物細胞と水のバランスの問題は、堅い細胞壁があるために、動物細胞とはやや異なっている
植物細胞は等張液に浸されると、たるんだ状態になる
この状態の植物は枯れてしまう
低張の環境では、細胞へ水が侵入し膨れた(引き締まった)状態になり、最も健全
弾力のある細胞壁はわずかに広がるが、押し返す力が生じ、細胞が水を取り込みすぎないよう抑えている
膨圧は植物細胞にとって、まっすぐにたった姿勢、張り広げた葉の状態を保持するために必要
高張液の環境では、植物細胞は動物細胞ほど丈夫ではない
原形質分離 plasmo-lysis
植物細胞が水を失うと、それはしぼんでしまい、細胞膜が細胞壁から離れる
たいていは細胞を死なせてしまう
能動輸送 : 膜を介した分子のポンプ
能動輸送 active transport
細胞が膜を介して分子を動かすのにエネルギーを必要とする
能動輸送では細胞のエネルギーは輸送タンパク質を駆動し、膜を介した濃度勾配に「逆らって」溶質を移動させることに使われる
すなわち、物質は濃度の低いほうから高い方へ移動する
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膜タンパク質は多くの場合ATPを能動輸送のエネルギー源として用いる
能動輸送により、細胞内の分子の濃度を細胞外と異なるものにすることができる
e.g. ナトリウム-カリウムポンプ
動物の神経細胞の内側は、細胞外に比べて、カリウムイオン(K+)濃度が高く、ナトリウムイオン(Na+)濃度が低くなっている
細胞膜はこの差を維持するためにナトリウムイオンを細胞外に汲み出し、カリウムイオンを細胞内へ取り入れている
この特異な能動輸送は、神経の信号伝達に不可欠
エキソサイトーシスとエンドサイトーシス : 大きな分子の輸送
これまで述べた内容はタンパク質などの高分子にはあてはまらない
高分子は大きすぎて、膜そのものを透過しない
これらの分子の細胞内や細胞外への輸送は、膜が袋を形成する能力に依存している
すなわち、大きな分子は小胞に包み込まれる
エキソサイトーシス exocytosis
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細胞でタンパク質が生成されるとき、分泌タンパク質は、輸送小胞から細胞を出ていく
すなわち輸送小胞は細胞膜に融合し、内容物を細胞の外に放出する
たとえば、人が泣くときには、涙腺の細胞はエキソサイトーシスによって塩分のある涙を放出する
エンドサイトーシス endocytosis
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膜を内側に伸ばして小胞を形成し、その中に物質を取り込んで移動させる仕組み
エンドサイトーシスには3種類ある
食作用(ファゴサイトーシス) phagocytosis
細胞が顆粒を飲み込んで、それを食胞内に閉じ込める
飲作用(ピノサイトーシス) pinocytosis
細胞が細胞外液の液滴を小さな小胞の中に閉じ込める
受容体仲介エンドサイトーシス receptor-mediated endocytosis
食作用も飲作用も輸送される物質に特異性はないのに対して、この作用は非常に特異的
この作用は、ある細胞外分子が、細胞膜に埋まった特異的な受容体タンパク質に結合することによって開始される
この結合は膜の一部に小胞を形成させ、その小胞が、特定の物質を細胞内に輸送する
ヒトの肝臓の細胞は、血液中からコレステロールの粒子を取り込むのに、受容体仲介エンドサイトーシスを用いている
細胞シグナルにおける膜の役割
細胞膜は、物質の輸送だけでなく、細胞外環境からのシグナルを細胞や、細胞間に伝える役割も果たしている
細胞膜にある受容体タンパク質が外界から刺激となる物質、たとえばホルモンを受容すると、一連のシグナル変換の反応が開始する
この刺激はシグナル伝達にかかわる1個あるいは数個の分子に連鎖反応を引き起こす(シグナルの経路に従って)
このシグナル変換経路 signal transduction pathwayにかかわるタンパク質とその他の分子は、シグナルを中継し、後続分子が機能できるようにその化学的形状を変化させる
シグナルはこうして最終的に様々な応答を引き起こす
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ヒトが運動競技などで「興奮した」状態になると、副腎の腺細胞はアドレナリン(エピネフリン)とよばれるホルモンを血中に分泌する
このホルモンは筋肉の細胞に到達し、細胞膜にある受容体タンパク質に認識される
この認識が、筋肉細胞の反応(たとえば、グリコーゲンをグルコースに分解するなど)を起こすきっかけをつくる
この一連の連鎖は「闘争か逃走か」という反応の一部になる
→5.7. 進化との関連 : 膜の起源